これは、ある工事現場で起きた不思議な話です。友人のAさんは、建設会社で働いておりまして、いろんな現場を渡り歩いてきました。彼が体験したのは、郊外の静かな土地での出来事です。
その現場は、昔からあまり開発が進んでいない場所で、木々が生い茂り、ほとんど手つかずの状態でした。ところが、ある大規模な住宅地の計画が決まり、古い土地を切り開いて新しい家を建てることになったのです。Aさんたちは、その土地で整地作業をしていました。つまり、土を掘り起こして平らにする作業ですね。
ある日、彼らが地面を掘り進めていると、突然、ショベルが何かに引っかかったんです。ゴンッ!と、固いものにぶつかった感触がありました。最初は大きな石か、古い建材か何かだろうと思っていたんですが、土を慎重に掘り返していくと、そこに見えたのは…。
「…骨だ。」
それもただの動物の骨ではなく、明らかに人間のもの。それを見た瞬間、現場の全員が凍りつきました。どうやら、掘り返した場所は昔の埋葬地か何かだったのかもしれない。慌てて作業を中断し、警察に連絡しました。
警察が来て、現場の調査が行われることになりましたが、その後、工事は一時中止になりました。しかし、気味が悪いことに、その晩からAさんは奇妙な夢を見るようになったんです。夢の中で、彼は同じ現場に立っていて、誰かが後ろからずっと見つめているような感覚がするんです。
そして、決まって耳元で囁かれるんです。
「返してくれ…」
何を返すのか、最初はわかりませんでした。ただ、その囁きは日に日に強くなり、夢の中でAさんは、いつも同じ場所に立って穴を掘り続けているんです。深く、深く、何かに引き寄せられるように掘り進めている。でも、どんなに掘っても終わらない。穴はどこまでも続いていくように思えるんです。
ある夜、特に強烈な夢を見ました。その夢の中で、Aさんは穴の底に到達しました。そこには、土の中に埋められた無数の骨と、何か…生々しいものが混ざっていたんです。夢の中のAさんはその骨を手に取り、何かを返そうとするんですが、その時、背後で何かが動く気配を感じました。
振り返ると、そこには黒くぼんやりとした人影が立っていました。そして、その人影がまた囁くんです。
「返して…私のものを…」
その声を聞いた瞬間、Aさんは目を覚ましました。全身が冷や汗でびっしょりでしたが、はっきりと感じたんです。あれはただの夢じゃない、何かが自分に「返せ」と訴えかけているんだ、と。
翌日、Aさんは不安に駆られ、もう一度あの現場に向かいました。工事は中止され、重機も全て撤去されていましたが、あの掘り返した場所がどうしても気になってしまったんです。
現場に着くと、ひどく空気が重く、まるで何かがその場に留まっているかのように感じました。Aさんはじっとその掘り返された穴を見つめていると、風が一瞬、静まり返りました。そして、耳元でかすかな声が聞こえたんです。
「帰れ…ここは…お前の場所じゃない…」
その声に押されるように、Aさんは慌てて現場を離れました。それ以来、Aさんは二度とその場所には近づかないようにしているそうです。工事も結局中止になり、計画自体も白紙になったとか…。
一体、あの土地には何が眠っていたのか、誰の声だったのか…。Aさんは今でもあの夢と掘り返された骨のことを思い出すと、背筋が凍ると言っています。
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