川の渦

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小学生のころ夏休みを利用して、友人たちと山の近くにある川に釣りに行くことになりました。その川は清流で、地元の人々にはあまり知られていない隠れた釣りスポットでした。森に囲まれた静かな場所で、川のせせらぎと鳥のさえずりが聞こえる、まさに自然の中でリラックスできる場所です。

朝早く、釣り道具を抱えて川のほとりへと向かいました。空は晴れていて、絶好の釣り日和。仲間たちと笑いながら川に糸を垂れ、のんびりとした時間が流れていました。しばらくすると、一人が何かを発見したかのように立ち止まりました。

「見てみろよ、あそこ、変な渦がある。」

その友人が指差した先、川の中ほどに、小さな渦が静かに巻いているのが見えました。水の流れは穏やかなのに、その一部分だけがくるくると回転しているんです。私たちは「なんだあれ?」と不思議に思いながらも、特に深くは考えず、釣りを続けました。

ところが、その渦に妙なことが起き始めたんです。最初は小さかった渦が、徐々に大きくなり、川の流れ全体を巻き込むように広がっていきました。それと同時に、川の水が冷たくなっているのを感じました。夏の川で冷たいのは普通のことですが、その冷たさは異常でした。まるで底なしの深淵から冷気が上がってきているような…。

「やばいな、引き上げようか?」と誰かが言いましたが、私たちはまだ様子を見ていました。すると突然、友人の一人が「え、何か引っかかった!」と叫びました。竿が激しくしなり、水面に何かが暴れ出すように現れました。魚だろうと思っていたのですが、引き上げられたものを見た瞬間、血の気が引きました。

それは、魚ではなく、人の手だったのです。青白く、冷たい水に晒されていたかのようなその手が、友人の釣り糸に絡みついていたのです。皆、声も出せず、その場に凍りついてしまいました。手はゆっくりと川の中に引き込まれ、渦の中心に吸い込まれていくように消えました。

しばらくして渦も消え、川は静かさを取り戻しました。でも、あの冷気だけはまだ漂っているかのように感じました。私たちは一言も話さず、荷物をまとめてその場を離れました。

地元に戻った後、川のことを話すと、村の年配の人たちがこんなことを教えてくれました。

「あの川には、昔、ある村人が流された場所があるんだ。溺れた人を助けようとしたんだけど、助けられなかったんだよ。それ以来、あのあたりでは時折、不思議な渦が現れるって話さ…」

その話を聞いて、私はあの日の渦と、釣り糸に絡まった手のことを思い出し、背筋が凍りました。渦に飲み込まれた何かは、今でも川底に沈んでいるのかもしれない。

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