これは、つい最近の話なんだけど、まだ頭の中で整理がつかない出来事だ。
俺のアパートの寝室には、大きなクローゼットがあるんだ。扉がスライド式で、まあよくある普通のクローゼットだよ。最近、なんかそのクローゼットから変な音がするようになってたんだ。夜になると、カタンとか、ミシッとか、微妙に気になる音がする。風が強い日とか、建物が古いせいだろうって思って、あんまり気にしてなかった。
でも、その日の夜は違った。
寝る準備をしてベッドに入ろうとした時、ふとクローゼットの扉が少しだけ開いているのに気づいたんだ。普段はちゃんと閉めてるはずなんだけど、まあ閉めが甘かったのかと思って近づいた。すると、クローゼットの中から何かが見えてるのが分かったんだ。
半分だけ、何かが出ている。
最初はよく分からなかった。薄暗い部屋で、クローゼットから突き出しているものが見えるんだけど、それが何なのかはっきりしない。でも、目をこらしてじっと見ているうちに、それが「手」だと分かった。
人間の手が、クローゼットの扉から半分だけ出てるんだ。肩までは見えなくて、肘から先だけが外に出てて、動かない。まるで、誰かが中から手だけをこちらに差し出しているみたいに。
「なんだこれ?」
そう思って目を離せなかった。手は動かないし、音もしない。クローゼットの中に誰かがいるはずもないし、そもそも中はいつも空っぽだ。でも、その半分だけ出ている手が、妙にリアルで、血の気が引くほど怖かった。
一歩後ろに下がって、部屋を明るくしようと思ったんだけど、動けない。どうにかしてその手を確認したくて、震える足を動かしてクローゼットに近づいたんだ。扉を開けて、中を確かめるつもりだった。
でも、その時だ。手が、ほんの少し動いたんだよ。指がピクリと。まるで、俺に気づいてるみたいに。
その瞬間、全身に寒気が走って、頭が真っ白になった。もう何も考えずにベッドから飛び出して、リビングまで一気に走ったんだ。それからしばらくは、怖くて寝室に戻れなかった。
次の日の朝、思い切ってクローゼットを確認したんだけど、当然のごとく何もなかった。半分だけ出ていた手も、影も、何一つ残ってない。
あれは何だったのか?未だに分からない。でも、あのクローゼットを見るたびに、また何かが半分だけ出てきているんじゃないかって、いつもビクビクしてる。
コメント