白い壁

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私が子供の頃の話です。小学2年生くらいの時、家族で祖母の家に泊まりに行くことがよくありました。祖母の家は、昭和の古い木造家屋で、どこか落ち着いた雰囲気が漂うところでした。でも、ひとつだけ私が苦手な場所があったんです。

それは、祖母の家の一番奥にある小さな部屋。なぜか、その部屋だけが異様に真っ白な壁で覆われていて、家具もほとんど置いていませんでした。普通なら何も感じないようなただの部屋なんですが、子供心にその部屋には近づきたくないという気持ちがありました。

一度、夜にトイレに行こうとしてその部屋の前を通った時のことです。家中が暗く、静まり返っていたんですが、その白い壁の部屋の扉が半開きになっているのに気づきました。普段は誰も使っていない部屋ですから、いつも閉まっているはずなんです。

「誰か入ってるのかな?」と不思議に思って、扉の隙間からそっと覗いてみました。すると、真っ白な壁に人影のようなものがぼんやりと映っているんです。最初は「ああ、誰かが中にいるんだな」と思っていました。でも、すぐにおかしなことに気づきました。そこに映っている影が、どこか不自然なんです。

影は動かないし、誰かが立っているような形なのに、その場には人の気配が全くしないんです。じっと見つめているうちに、影が徐々に薄れて消えていきました。怖くなって、その場を走って逃げました。

翌日、祖母に「白い部屋に誰か入っていたの?」と聞いてみました。祖母は少し驚いたような顔をして、「あの部屋はもうずっと使っていないし、誰も入るはずがないよ」と言いました。私はますます不安になりましたが、それ以上は何も聞けませんでした。

それからしばらくして、家族で祖母の家に行くことが減り、あの白い壁の部屋のことは忘れていました。

大人になってから、久しぶりに祖母の家に行った時、ふとあの部屋のことを思い出しました。何となく懐かしい気持ちで、その部屋を訪れてみました。扉を開けると、当時のままの真っ白な壁が迎えてくれましたが、今では何も感じませんでした。

ただ、ふと思い出して壁をじっと見つめていると、あの時と同じように、ぼんやりとした人影が壁に映っているように見えたんです。気のせいだと思い込もうとしましたが、急にあの子供の頃の怖さがよみがえってきて、私はすぐに部屋を後にしました。

それ以来、あの白い壁の部屋にはもう二度と入っていません。

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