里芋の煮物と消えた友達

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ある日の夕方、私は友人のユウタと一緒に近くの神社へ向かっていた。夏祭りが開催されるということで、久しぶりに再会することになったのだ。ユウタとは小学校の頃からの友人で、彼の家は神社の近くにあった。私は彼と一緒に過ごす時間が大好きだった。

神社に着くと、すでに多くの人が集まっており、祭りの提灯が美しく光っていた。私たちは参道を歩きながら出店を見て回った。ユウタは笑顔で、楽しそうにいろんな屋台を巡っていた。

「お腹空いたな。何か食べようか?」

ユウタが提案し、私たちは近くの屋台で焼きそばを買った。夜風が心地よく、二人で話しながら食べていると、ユウタの家から声がかかった。

「ユウタ、帰ってきなさい!ご飯よ!」

それはユウタの母親の声だった。彼の家はすぐ近くで、祭りの喧騒の中でも声がはっきりと聞こえた。ユウタは少し困ったような顔をして私を見た。

「ごめん、先に家でご飯食べてくる。すぐ戻るから待っててくれ」

ユウタはそう言って急いで家に帰っていった。私は一人で参道のベンチに座り、彼を待つことにした。

時間が経つにつれて、祭りの賑わいが薄れていった。私は何度もユウタの家の方を見たが、彼は戻ってこなかった。心配になり、私は彼の家に向かった。

ユウタの家の前に着くと、玄関の灯りがついていた。私はドアをノックしたが、応答がなかった。ドアは少しだけ開いており、中から薄暗い光が漏れていた。

「ユウタ…?」

私は小声で呼びかけながら家の中に入った。玄関からリビングに向かうと、テーブルの上に夕食が並んでいた。里芋の煮物と白米がきれいに盛り付けられていたが、誰もいなかった。

「おばさん…?」

私はもう一度声をかけたが、返事はなかった。リビングには誰もいない。ただ、里芋の煮物の香りが漂っていた。私はテーブルの周りを見渡し、ふと不安を感じた。

「ユウタ、どこにいるんだ?」

私はリビングを出て、家の中を探し始めた。階段を上り、ユウタの部屋のドアをノックした。静寂が広がり、何も聞こえなかった。ドアを開けると、部屋は空っぽだった。ユウタの姿も、誰の姿もなかった。

私は胸の鼓動が早くなるのを感じた。家の中は静まり返っていて、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。私はもう一度リビングに戻り、テーブルの上の食事を見た。里芋の煮物がまだ温かく、湯気が立ち上っていた。

「こんなはずはない…」

私は震える声で呟いた。その時、背後で足音が聞こえた。振り返ると、そこには誰もいなかった。ただ、何かが私を見つめているような気がした。

「ユウタ…?」

私はもう一度呼びかけたが、返事はなかった。その時、リビングの窓がガタガタと揺れ始めた。私は恐怖で動けなくなり、ただその場に立ち尽くしていた。

突然、リビングの電気が消え、真っ暗になった。私は叫び声を上げ、急いで玄関に向かった。ドアを開けて外に出ると、夏の夜風が冷たく感じられた。

「ユウタ…」

私は震える声で呟きながら、家を離れた。あの家で何が起こったのか、私は理解できなかった。ユウタとその家族がどこに消えたのか、答えは見つからなかった。ただ、あの里芋の煮物と白米の香りが今でも鼻を突く。

その後、私は何度も神社に行き、ユウタの家の前を通ったが、あの家に誰も戻ってくることはなかった。友人も家族も、まるで最初から存在しなかったかのように、すべてが消え去っていた。どこにもいないはずのユウタの姿を、ふとした瞬間に見たような気がして振り返っても、そこにはただ静かな夕暮れが広がっているだけだった。

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