落ちてくる!

スポンサーリンク

私はその日、友人たちと山へハイキングに出かけていた。都会の喧騒を離れ、自然の中で過ごすのは久しぶりだった。空気は新鮮で、鳥のさえずりが耳に心地よかった。私たちは山道を進みながら、冗談を言い合い、笑い声が森の中に響いていた。

昼過ぎに頂上に到着し、絶景を見下ろしながらお弁当を広げた。広がる青空と遠くに見える街並み、緑の木々のコントラストが素晴らしかった。私たちはそこでしばらく休憩し、写真を撮ったり、景色を楽しんだりしていた。

午後も深くなり、そろそろ下山しようということになった。私たちは山道を下り始めたが、次第に霧が立ち込めてきた。霧は急速に濃くなり、視界がほとんどなくなってしまった。足元も不安定になり、皆が慎重に歩き始めた。

「気をつけろよ、足元が滑りやすいから」

リーダー役の友人が声をかけた。私は周りを見渡しながら、霧の中で道を見失わないように気をつけていた。しかし、霧はますます濃くなり、道の先が全く見えなくなった。

その時だった。

「落ちてくる!落ちてくる!」

突然、前を歩いていた友人が叫び声を上げた。私は驚いて立ち止まり、声のする方を見た。霧の中から何かが落ちてくるのが見えた。それは黒い影のようなものが次々と上から降ってきているようだった。

「何だあれは…?」

私は目を凝らしてその影を見つめたが、霧が濃すぎてはっきりとは見えなかった。友人たちも立ち止まり、恐怖で立ち尽くしていた。

「気をつけろ!何かが落ちてくる!」

再び友人が叫んだ。私は頭を上げ、空を見上げた。すると、確かに上から何かが降ってきているのが見えた。影は次第に大きくなり、私たちの頭上を覆い始めた。

「走れ!逃げるんだ!」

リーダーの声が響いたが、私は足がすくんで動けなかった。影がどんどん近づいてくる。心臓が激しく鼓動し、全身が震えた。

「落ちてくる!落ちてくる!」

私は叫び声を上げたが、その時にはもう遅かった。影が私たちの上に覆いかぶさり、何かが私の肩に触れた。冷たい感触が全身を包み、私はその場に崩れ落ちた。

「助けて…」

声を出そうとしたが、口が動かなかった。視界が暗くなり、耳鳴りがする。私はそのまま意識を失った。

目が覚めると、私は地面に横たわっていた。周りは静まり返っていて、霧もすっかり晴れていた。私は起き上がり、辺りを見回したが、友人たちの姿は見当たらなかった。

「みんなどこに行ったんだ…?」

私は呟きながら立ち上がり、辺りを歩き回った。森の中は静まり返っていて、ただ風の音が聞こえるだけだった。私は友人たちを探しながら歩き続けたが、誰の姿も見つからなかった。

次第に不安が大きくなり、私は走り出した。どこに向かっているのか分からない。ただ友人たちを見つけたいという思いで走り続けた。

やがて、森の中に一軒の古い小屋を見つけた。私は躊躇なくその小屋に駆け寄り、ドアを開けた。中には、友人たちが倒れていた。皆が意識を失っているようで、動かなかった。

「大丈夫か!?しっかりしてくれ!」

私は彼らに駆け寄り、揺さぶったが、誰も反応しなかった。皆の顔が青白く、まるで何かに吸い取られたかのように見えた。

その時、背後から声が聞こえた。

「落ちてくる…」

振り返ると、小屋の隅に一人の老人が座っていた。彼はぼんやりとこちらを見つめ、低い声で繰り返していた。

「落ちてくる…全てが落ちてくる…」

その言葉に、私は背筋が凍る思いをした。何が落ちてくるのか、何が私たちを襲ったのか、答えは見つからない。ただ、あの霧の中で感じた恐怖が、今も私の中でくすぶり続けている。

あの時の影が何だったのか、あの老人が何を意味していたのか、私は今でもその答えを探し続けている。森の中で感じた「落ちてくる」恐怖が、今も私を悩ませている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました