無残、無残、無残!

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ある小さな村には、古くから伝わる奇妙な風習があった。その村の中心には小さな祠があり、村人たちは定期的に祠に集まり、祈りを捧げることが習慣になっていた。祠の中には古い木製の像があり、その像に向かって祈ることで、村に平和と繁栄がもたらされると信じられていた。

私がその村を訪れたのは、偶然だった。旅の途中で道に迷い、行き着いたのがその村だった。村人たちは親切で、私を温かく迎えてくれた。村は静かで平和に見えたが、どこか不穏な雰囲気が漂っているのを感じた。

村に着いたその晩、私は宿泊することになった家の家族から、祠の話を聞かされた。

「この村では、定期的に祠に祈りを捧げるんです。祠の中には古い像があり、その像に向かって祈ることで村を守ってもらっていると信じているんですよ」

その言葉に興味を引かれた私は、次の日の朝、祠を訪れてみることにした。祠は村の外れにあり、古びた石の階段を登った先にあった。祠の周りには古い木々が生い茂り、薄暗い雰囲気が漂っていた。

祠の中に入ると、そこには確かに古い木製の像が祀られていた。像は何百年も前に作られたもので、風雨にさらされて朽ちかけていたが、その姿はどこか神聖なものを感じさせた。私は像の前に立ち、手を合わせて軽く祈りを捧げた。

その瞬間、突然後ろから声が聞こえた。

「祈りは無駄だ」

驚いて振り返ると、そこには誰もいなかった。しかし、確かに声が聞こえた。私は不安を感じながらも、再び像の前に向き直った。すると、像の目がまるでこちらを見ているかのように感じた。私は冷たい汗をかき、すぐに祠を出た。

村に戻ると、村人たちが集まって何かを話し合っているのが見えた。彼らの表情は険しく、何かを恐れているようだった。私は近づいて話を聞こうとしたが、村人たちは私を見ると急に黙り込んだ。

「何があったんですか?」

私は尋ねたが、村人たちは答えなかった。ただ、一人の老人が静かに私に近づき、低い声で言った。

「この村には、古くからの言い伝えがあるんです。祠の像は、村を守るためのものではありません。あれは、村を滅ぼす者を封じるためのものなんです。祠に祈りを捧げることで、私たちはその者を封じ続けているんです」

その言葉に、私は背筋が凍る思いをした。祠の像がただの守り神ではないということを知り、あの不気味な雰囲気の理由が分かった気がした。

その夜、村は不穏な空気に包まれていた。風が強くなり、家々の窓が軋んだ。私は宿泊している家の中で、不安な気持ちで寝床に入った。夜が更けるにつれ、村全体が静まり返り、ただ風の音だけが響いていた。

突然、祠の方から祈りの声が聞こえてきた。それは低く、どこか絶望的な響きを持つ声だった。私は眠れないまま、声を聞きながらじっとしていた。やがて、声は次第に高まり、叫び声のように変わっていった。

「無残、無残、無残!」

その声が村中に響き渡った。私は恐怖で体を縮こませ、布団に顔を埋めた。声はますます大きくなり、村全体を揺るがすようだった。その声がどこから来るのか、誰が叫んでいるのか分からなかった。ただ、一つだけ確かなのは、あの声が何か恐ろしいものを呼び寄せているということだった。

朝が来ると、村は静まり返っていた。私は恐る恐る外に出ると、村の中央に人々が集まっているのが見えた。彼らは祠の方を指差し、何かを話していた。私は近づいてみると、祠の扉が開いているのが見えた。

祠の中に入ると、そこには無惨な光景が広がっていた。像は倒れ、その周りには血の跡が広がっていた。まるで何かが像を破壊し、中から這い出してきたようだった。私はその場で立ち尽くし、足が震えるのを感じた。

村人たちは誰も口を開かなかった。ただ、無言で祠を見つめていた。私はその場から逃げ出し、村を去ることにした。あの夜の祈りの声と、「無残、無残、無残」という叫びが耳に残っていた。

村を離れた後も、あの日の出来事が頭から離れない。祠の像が何を封じていたのか、そしてなぜあの夜に封じが解かれたのか、答えは分からない。ただ、あの村には何か恐ろしいものが隠されていたことだけは確かだ。そして、その恐ろしいものは、今もどこかで待ち続けているのかもしれない。

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