これは、僕が高校生のときに実際に経験した話だ。あの時のことを考えると、いまだにぞっとする。
高校の帰り道、僕はいつも同じ道を通って帰っていた。学校を出て、しばらく歩くと古い商店街を抜ける。その商店街には、使われていない店がいくつもあり、夕方になると人影もまばらになる場所だった。
その日は、少し遅くまで部活の練習をしていて、学校を出たのが夕方の5時半を過ぎていた。商店街に入ると、もう薄暗くなり始めていて、いくつかの街灯が点いていた。商店街のシャッターはほとんどが閉まっていて、少し寂しい雰囲気が漂っていた。
いつも通り歩いていたのだが、その日は何かが違った。周囲が異様に静かで、普段なら聞こえるはずのどこかのテレビの音や、通り過ぎる車の音も聞こえない。少し不安になりながらも、そのまま歩き続けていた。
ふと、視線を感じた。前方の道端に立っている郵便ポストの前に、小さな影が見えた。近づいてみると、それは小学生くらいの男の子だった。ランドセルを背負っていて、じっとポストの前で立ち尽くしていた。
「どうしたの?」と声をかけようと思ったが、なぜかその言葉が出なかった。男の子は僕に気づく様子もなく、ただポストを見つめている。なんとなく、その場を立ち去るべきだという気がして、僕は男の子を避けて歩道の反対側に移動した。
その時、ふと気づいた。商店街の道が、普段と違うように感じる。いつもなら真っ直ぐに続くはずの道が、どこか歪んでいるような気がするのだ。まるで、道が微妙に曲がっているような、そんな感覚。
足を止めて、周囲を見渡した。どの建物も見覚えがあるはずなのに、何か違和感を感じる。まるで、夢の中で知っている場所にいるような、現実感が少しずつ薄れていくような不安が胸に広がった。
男の子の方をもう一度見ると、彼はまだポストの前に立っていた。次の瞬間、僕の目の前で何かが動いた。驚いて目を凝らすと、男の子がゆっくりと振り返り、こちらを見た。
その顔を見た瞬間、心臓が止まりそうになった。目が大きく開かれていて、口が小さく開いている。その顔には、まったく表情がなかった。まるで、顔が無表情の仮面を被っているような、そんな感じだ。
全身に鳥肌が立ち、逃げ出したい気持ちが強くなった。急いで歩き出すと、背後から男の子の足音が聞こえてきた。ついてくる。冷たい汗が額ににじんだ。
「なんで…」
僕は振り返らず、歩く速度を速めた。でも、足音は相変わらずついてくる。怖くなって走り出した。商店街を抜けるまでの道が、異常に長く感じた。
やっとのことで商店街を抜け出した時、ようやく足音が消えた。振り返っても、もう男の子の姿はなかった。商店街の入り口に立って、ただただ息を整えた。周囲はいつもの見慣れた景色に戻っていて、通りには人々が行き交っていた。
あの日のことは、今でもはっきりと覚えている。あの商店街の道は、今でも毎日通っているが、あの男の子を見かけたことは一度もない。ただ、あの時の視線の感覚は、今でも忘れられない。
なぜあの道があんなにも長く感じたのか、なぜあの男の子がそこに立っていたのか、未だに答えは分からない。ただ、あの日以来、商店街を通るたびに、心のどこかであの時のことを思い出してしまう。
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